もの忘れ外来について
「もの忘れは、歳だから仕方ない。頭部MRI検査で問題ないから大丈夫。」
で終わらせていませんか?
日本国内の認知症の方は600万人、認知症の前段階の軽度認知障害 (MCI)
の方は400万におり、高齢化が進む我が国では、認知症は国民病です。もの忘れは、しわや白髪が増え、腰や膝が痛くなる、筋力が落ちるのと同様に、年を重ねると誰にでもみられる生理的な現象です。
もの忘れ外来では、生理的なもの忘れと、病的なもの忘れとの鑑別を行い、病的なもの忘れの場合には、原因診断、治療を行います。近年、様々な検査が可能になり、多くの認知症の原因疾患の早期診断、鑑別が可能になりました。しかし、認知症の病態や原因は分かっていないことも多く、認知症の診療には、患者さんご本人、ご家族へ症状、経過などのお話をよく聞くこと、神経学的診察が重要であることは、今も変わりません。
また、認知症の発症、進行予防には、内科的治療も重要です。内科疾患と認知症を、複数の医療機関、別々の診療科で診療することは、患者さん、ご家族の負担になっている場合があります。症状、内科疾患、認知機能、生活環境を総合的に判断して、内服薬の種類、服用時間を注意して治療を行うことが大切です。
ご本人やご家族が、心配なこと、困っていること、どの検査が必要かなどの相談も行っています。些細なことでも結構ですので、まずは気軽にご相談ください。

生理的なもの忘れと、病的なもの忘れの違い
日本認知症学会認定の認知症専門医、指導医、大学関連病院での認知症ケアチーム責任医師を務めてきた経験を生かし、患者さん、ご家族と相談しながら、認知症状、一般内科疾患などの併存症、生活環境を考慮した診療を行っていくよう努力していきます。ご本人、ご家族のもの忘れ、認知症で悩まれている方は、遠慮なくご相談ください。
- ご自身やご家族が、認知症、MCI(軽度認知障害)じゃないか心配。
- 他の医療機関での診断や治療に関して相談したい。
- 遠方や大きな病院へ通院するのが大変だから、みてほしい。
- 内科と認知症を継続して一緒に診療して欲しい。
- レケンビ (レカネマブ) の治療対象になるか判断してほしい (当院ではレケンビ投与はできません。治療対象と判断した場合は、投与可能な中核病院へご紹介します。)
どんな症状で相談すればいい?

認知症の症状
現在、日本国内の65歳以上の方の15%が認知症です。更に増加する見込みで、2025年には認知症患者数は700 万人を超え、65 歳以上の 5人に 1人が認知症になると推測されています。認知症は、一度、正常に発達した知的機能が、脳の後天的な器質的変性により生じる症候群であり、持続的な認知機能の低下、記憶力の低下、思考・見当識・理解・学習など様々な大脳皮質機能の障害をきたし、日常生活に支障をきたす状態になる器質性疾患と定義されます。すなわち、認知症では、もの忘れだけではなく、注意力低下、複雑なことができなくなる、情報処理能力、判断力が落ちる、今までできていた作業ができなくなるなどの様々な症状を認めます。
1つでも症状があるから認知症というわけではなく、元々のキャラクター、年齢、併存疾患、表情、神経症状などを診察しながら、診断や治療が必要かを判断していきます。ご家族や身近な方で、もの忘れが目立って変だなと感じることはありませんか?
もしかしたら、それが認知症のサインかも知れません。認知症は早めに対応することで、症状を改善させ、進行を遅らせることができる場合があるので、まずはご相談ください。
もの忘れ以外の症状
下記の症状でも遠慮なく、ご相談ください。
- 何度も同じことを聞く
- 洋服がうまく着られなくない
- 部屋の片付けができない
- よく知った場所で道に迷う
- 落ち着きがない
- 怒りっぽくなる
- 食欲がない
- 意欲がわかない
- 幻覚がみえる、きこえる など
もの忘れ外来での診察の流れ


診断

認知症診療で、最も重要なのは、原因疾患の診断です。
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症の3つを合わせて三大認知症と呼び、認知症全体の85%を占めます。
その他の認知症の原因疾患に関しては、嗜銀顆粒性認知症、ハンチントン舞踏病、進行性核上性麻痺、意味性認知症、大脳皮質基底核変性症、神経原性変化型老年認知症、肝性脳症、前頭側頭葉変性症、CADASIL、クロイツフェルト・ヤコブ病など様々な疾患があります。
認知症の原因疾患の中でも、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、てんかん、ビタミン欠乏症(葉酸、ビタミンB1、ビタミンB12)、代謝性疾患(甲状腺機能低下症、橋本脳症、高血糖、低血糖)、電解質異常(Na、Ca、P)、感染症(結核、髄膜炎)、自己免疫疾患(自己免疫性脳炎、SLE、血管炎、多発性硬化症、サルコイドーシス)、薬剤性(睡眠薬、ステロイド、抗ヒスタミン薬、パーキンソン病治療薬、抗コリン薬、向精神病薬、鎮痛剤など薬剤の副作用)などは治療可能な疾患であり、認知症が全て治療できないわけではありません。
認知症の原因疾患の診断で最も重要なのは、問診と神経学的診察です。問診内容は、症状、経過、ご本人、ご家族が何にどれくらいに困っているか、他の疾患、薬剤の有無、生活環境、運動機能、現在の服薬状況、日常生活の様子などをお聞きします。問診後は、神経的診察を行い、神経症状やもの忘れの程度を判断します。
診察結果次第で、採血検査、脳波検査、頭部MRI検査、頭部MRI検査、核医学検査(SEPCT検査、心筋MIBGシンチ検査、ダットスキャン)、アミロイドPET検査などの追加検査や、中核病院を受診する必要があるか判断させていただきます。追加検査、中核病院での診療、入院が必要と判断した場合には、連携医療機関へご紹介させていただく場合もあります。
治療
認知症の症状は、 中核症状と周辺症状(BPSD: Behavioral and
Psychological Symptoms of
Dementia、認知症の行動・心理症状)の2つに大きく分けられます。
中核症状には、記憶障害、見当識障害、実行機能障害が含まれ、BPSDは、環境、身体の状況、心理的な要因などが誘因となり様々な症状を認めます。代表的なBPSDの症状としては、興奮、不穏、幻覚、物盗られ妄想、大声を出す、怒りっぽい、攻撃敵になる、暴力をふるう、昼夜逆転、同じ行動を繰り返す、うつ状態、眠れない、意欲が低下する、ひきこもる、食欲がないなどがあり、患者さん自身、ご家族や介助者の精神的、肉体的なストレスになる場合があります。
治療薬、ケア、生活環境の調整により、中核症状の進行が緩徐になり、BPSDが軽快し、患者さん、およびご家族のストレスや不安を軽減できる場合があります。しかし、認知症の治療薬は、嘔気、めまい、ふらつき、眠気などの副作用の頻度が他疾患の治療薬に比べて多いため、内服治療開始後にも状態の変化を観察しながら、慎重な内服薬の調整を行う必要があります。当院は、認知症の原因疾患の診断、患者さん、ご家族の希望、生活環境を考慮した上で、適切な治療薬を選択します。
我が国では、高齢化が進み、ご家族の誰かしらが認知症になることを、多くの方が一度は経験します。身近な方が、認知症になると、誰しもが、辛く悲しい気持ちになり、受け入れるのに時間がかかります。
しかし、患者さん自身も、心身共に衰え、若いときのように思い通りにならない、老化していく自分を受け入れなければならないことに対して、強いストレスや不安を感じています。
年齢を重ねることで、誰しもが、「老いることに対しての漠然とした不安」「嫌な思い、辛い思い、恥をかく、失敗するなどを無意識に本能的に避ける」「性格特性の尖鋭(元々の性格が、加齢と共により強くなり、前面に出てくる)」「活動性減退(意欲が低下する)」「短気、抑制力低下(我慢できない)」「抑うつ傾向の増大」などの精神的な特徴がみられるようになります。
当院では、認知症の診断、薬剤調整だけではなく、患者さん、御家族が不安なこと、どのような生活環境を希望しているかを相談しながら、環境調整、社会資源の利用も含めたアドバイス、治療を行っています。ご家族だけで悩まないで、まずは、ご相談ください。
認知症の原因となる代表的な疾患
アルツハイマー型認知症
レビー小体型認知症
脳血管性認知症
アミロイドアンギオパチー(脳アミロイド血管症)
正常圧水頭症:治る認知症
65歳未満で発症する認知症は、若年性認知症と呼ばれており、全国で3.57万人(18-64歳:50.9人
/
10万人)の患者様がいると言われています。男性にやや多く、原因疾患としては、脳血管性認知症が40%と最多、次いで、アルツハイマー型認知症が25%と報告されています。
若年性認知症の初期症状は、非典型であったり、頭部MRI検査上の異常所見を認めない場合もあり、診断が遅れたり、誤診されるケースも少なくないです。高齢者の方の認知症と比べ、薬物の副作用、神経梅毒、AIDS、髄膜炎などの感染症、甲状腺機能異常、橋本脳症、アジソン病などの内分泌疾患、ウェルニッケ脳症、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏などのビタミン欠乏症、自己免疫性脳炎、多発性硬化症、てんかんなどの内科疾患が原因の場合も多く、治療で症状が大きく改善する場合もあります。
「若いからきっと大丈夫」「頭部MRI検査で異常ないから大丈夫」などの自己判断せず、気になる方は、まずはご相談ください。